TYPE-MOON展 奈須きのこ本棚にあった資料・種本48冊全部読む

 

 2019年末から2020年8月まで行われた「TYPE-MOONFate/stay night -15年の軌跡-」の展示企画の一つ、奈須きのこの仕事場にあるデスクやパソコン、本棚をイメージ再現した「Kinoko Nasu's WORK SPACE」から漫画と小説以外の本を抜き出して読んだもの。

 1冊目の『価値がわかる宝石図鑑』を読んだのが2021年3月7日、48冊目の『料理と帝国』を読んだのが2021年6月8日なので約3ヶ月かかった。

 本棚の中にはこの記事に載せたもの以外に書籍が漫画9冊と小説が150冊ほど。ゲームが3作と大量の音楽CDがある。

 『TYPE-MOON展図録』に棚の写真が載ってて、それを見れば収録本は大体わかる(一部角度的に背表紙が見えない本もある)のでみんなも買って読もう。

 

 本の並びはどの本がどの作品に使われた(可能性がある)のかわかりやすくするために出版年順。

 各作品の発表年代については 

 こちらの記事を参考にするとわかりやすいかと。

 僕もこの記事を書くにあたってかなり参考にして、「『失われた動物たち』と原作版『まほよ』書かれたのほぼ同時期だな……」とか「『428』と『未来福音』書かれたのほぼ同時期だな……」とかやっていました。(地産地消)。

 

 本棚にある小説と漫画については

 こちらをご参照ください(小説はまだ1/3くらいしか読んでないけど)。

 

 個人的にこの中で1番のオススメは『価値がわかる 宝石図鑑』。読んでいると合成の安物でいいからなんか手元に宝石が欲しくなってくる。元ネタ探し的な意味でも「あっもしかしてベリル・ガットの由来この本!?」ってサプライズ要素があるのも嬉しい。

 ある意味面白かったのは『型の完成にむかって』『決定版 毎日のおかず」『バッティングの正体』あたり。「中要秘刊集」「カニ風味かまぼこ五目」「シンクロステップ」みたいなかなり独特の用語が使われているおかげで読むと一発で『Fate/stay night』の弓道描写と料理描写、『DDD』の野球描写の種本であることがわかり、読み甲斐がある。

 

 

 


Truth In Fantasy 4 幻想世界の住人たちII 1989年5月

 奈須きのこ曰く「我々の心の故郷*1」というTruth In Fantasyシリーズの4冊目。著者は健部伸明と怪兵隊。

 ヨーロッパ・中近東・アジア・南北アメリカ・文学作品に登場する幻想生物と悪魔について解説した本。

 きのこ関係だとティアマトと11の怪物、キングー、マーラ、ソロモン72柱、イシュタル、エレシュキガル、ガルラ、アスタロス、ジャバウォックとバンダースナッチなんかの記載がある。

 この中では多分一番古い本の割に『FGO』で使われたような新しいネタが妙に多い。もしかして今でも現役で種本として使っているんだろうか、Truth In Fantasy……。


Truth In Fantasy 8 武勲の刃 1989年12月

 Truth In Fantasyシリーズの8冊目。著者は市川定春と怪兵隊。

 刀剣の歴史や刀剣の種類ごとの能力値(何それ?)について解説した本。

 きのこ関係だとエクスカリバー棍棒ヘラクレス)、ダーク、ハルパーが記載されている。

 エクスカリバーに関しては片刃説が取りあげられているけど別に『Fate/stay night』には採用されていない。

 この本読んで初めて知ったんだけど、ダーク、中東とか全然関係ないスコットランドの短剣じゃん! なんでハサン・サッバーハが使ってるの……? 名前が闇っぽいからなのか?

 あとこれもこの本読んで初めて知ったんだけど、ハルペー、剣じゃん! 『stay night』の解説文で「女怪殺しの神剣」って書いてあるのその名残だったのか。ランサーメドゥーサ見る限り今は完全に長物扱いっぽいけど。

 エクスカリバーもダークもハルペーも記述ほぼ無視してるし、ヘラクレスについても1~2行しか触れてないので何に使われたのか割と謎の本。

 元ネタを一切無視してるところに目を瞑れば少なくともダークの由来はこの本なんだろうなとは思うが……。


Truth In Fantasy 6 虚空の神々 1990年4月

 Truth In Fantasyシリーズ6冊目。著者は健部伸明と怪兵隊。

 タイトルや表紙からは読み取れないが、ケルト神話北欧神話の神々について説明した本。あくまで神々がメインなのでクー・フーリンやフィン・マックールに対しては断片的に触れる程度の内容。

 ルーの槍「ブリューナク」やヌァザの剣「クラウ・ソラス」の名称を創作したとして割と悪名高い本でもある。一応本文中に「不勉強で原語版に当たれていない資料も多いので間違っていたら訂正してください」とか「自分は学者じゃなくてライターなので独自解釈も書いてます」みたいなエクスキューズが書いてはあるんだけど、そういう問題でもない気はする。

 きのこ作品に関係する内容だと「フラガラッハ」「ブリューナク」「グングニル」「バロールの目」あたり。でもあまり参考にされている気配はない。

 例えば『Fate/stay night』ではブリューナクに「轟く五星」って日本語表記がついているけど、どうもこのブリューナク=5って発想はTruth In Fantasy30『聖剣伝説』が出典らしい(参考)。『聖剣伝説』由来っぽいものは他にも『stay night』の武器解説「ダインスレフはシグルドを殺した一族に伝わるファフニール竜の収集宝具」がある(参考)。

 当たり前だけどこの本棚に入っていない本の内容も作品内に反映されているという。

 こうして悪い影響与えた所だけ並べると『聖剣伝説』どうしようもない本だったように見えるけど、きのこが「マーリンがエクスカリバーより鞘の方が大事だってアーサーに説教した」ってエピソードを知ったのも多分この『聖剣伝説』なんだろうなとは思うので、功罪は両方ありそう。

 いやまぁどっちにしろ(『空の境界』『Fate/stay night』くらいの時にTruth In Fantasyを種本として使ってたのは時代的に仕方ないとしても)今でも読んでるんだとしたらそれはちょっと辞めた方がいいんじゃないかな……と思う気持ちはある。

 

女神転生Ⅱのすべて 1990年5月

 ファミコンRPG『デジタル・デビル物語 女神転生II』の攻略本。ゲームのあらすじ紹介や登場悪魔の解説と設定画、その他攻略情報等が掲載されている。著者は成沢大輔。

 登場悪魔の内きのこキャラを拾うとアサシン、アスタロート、アトラス、ガネーシャクーフーリン、ケツアルカトル、タマモノマエ、ティアマット、ティホン、フェンリル、ペガサス、メデューサ、レヴィアサンとか。きのこ以外も含めればヴァルキリー、ヴリトラ、キヨヒメ、タロス、ミノタウロスメフィストなんかもいる。

 とはいえ悪魔解説の内容自体は文字数が大体100文字くらいしかないのもあってかなり薄くて、さすがにこの本を資料として使って作品が書かれているとも思えない。

 じゃあなんのための本なのかを想像してみると、「私はこの本でクー・フーリンを知りました」アピールとかなんじゃないか? 「『メガテン』の台頭でクー・フーリンを知ってケルト神話に興味を持った*2」って発言もあるし、『旧Fate』書かれたのが1991年あたりなので時期も合う。

 

宇宙の起源 1995年7月

 「知の再発見」双書シリーズ49冊目。著者はチン・ズアン・トゥアン。

 古代エジプトや古代バビロニアから現代(1995年)まで宇宙観が天動説→地動説のようにドンドン移り変わっていく歴史や、宇宙・銀河・地球の成り立ち等について解説する入門書。

 きのこ作品で宇宙の起源に関するネタだと一番最初に思いつくのは根源(「 」)の設定そのものだけど、本棚にはもう一冊宇宙の起源に関する種本『宇宙のはじまりの星はどこにあるのか』があってそちらは2013年刊行。両方同じ時期に買ったと仮定するならもっと新しい設定に関わっている本なのかもしれない。

 というか、多分『月姫 - A piece of blue glass moon-』用の本だろう、この2冊。もともとシナリオが完成したのは2014年頃らしいのでちょうど時期も一致している。

 この本で言うと使われているのは「宇宙が生まれた時の大きさは10-34cm」(実際のリメイク版前編では10-35に訂正されている)、「天文学においてインフレーションと呼ばれる宇宙の始まりを示す現象」「夜が暗いのは宇宙には150億年分の情報しかないから」(実際のリメイク版前編では138億年に訂正されている)あたり。

 『FGO』で言うとソンブレロ銀河やマウナケア天文台の名前もこの本の中に載っているけど、まぁこれはあんまり関係ないか。 


アボリジニー神話 1996年3月

 アボリジニー神話の伝承50エピソードをまとめた本。著者はK・ラングロー・パーカー。

 こういう○○神話系の本って「この神様はこういう性格でこういうエピソードを持ってて~」みたいに解説する感じの内容だと思いこんでたので本当に伝説しか載ってなかったのがちょっとびっくり。オーストラリア版遠野物語みたいな感じだった。

 エミューには何故翼がないのかを説明した「エミューのディンナーワンとシチメンチョウのグーンブルガッボン」、ワライカセミは何故早朝に大声で鳴くのかを説明した「いかに太陽は造られたか」のような素朴な起源神話とかが色々書いてある。

 きのこ作品にアボリジニ神話の要素が出たこと今まで一度もないと思うので、多分これからアボリジニ出典のきのこ鯖がどこかで出るんだろう。バイアーメとかワーランナーとか? 個人的には「カラスのウィーリーヌン、ワーン」が理不尽すぎて好き。

 アボリジニ神話って日本だとほとんど知られていないと思う(少なくとも僕は今回これ読んで初めて知った)ので今のうちに読んでおくと実際に登場した時に「おっこれ『アボリジニー神話』で読んだ奴じゃん!」とか思えて楽しいかもしれない。

 一応きのこ作品に限定しなければ『Fate/Requiem』にアボリジニ風の服装をした少女がもう出てるけど、あっちはこの本に出典がなさそうなので関係ない。

 

Fate/Grand Order』2部7章「黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン 惑星を統べるもの」で言峰綺礼ラスプーチン)に混ざってる月のバーリー、「サーヴァント・サマー・フェスティバル2023!」で水着ノクナレアが名乗っているヤラアーンドゥの種本だったことがわかった。

 両方ともメインキャラでも何でもないちょい役だったので普通に憶えてなくて、全然「おっこれ『アボリジニー神話』で読んだ奴じゃん!」って思えてない! ヤラアーンドゥーに至ってはこれは……キャラなのか? 地名とかじゃない?

 竹箒日記を見るに水着ノクナレアの設定考えたのは早くても2022年5月のようなので、2019年末にきのこ本棚が公開されて以降で初めて明確に種本として使われた例になるのはちょっと面白い。

 いやまあ、「言峰の複合神性は月のバーリー」ぐらいなら2019年時点(というか2017年末に初登場した時点)で既に考えてあってもおかしくないにしても、7章鯖用のマヤ・アステカ本なんかは7章プロット詰めたの2021年って話だし本棚公開後にも読まれているとは思うけど。

 

失われた動物たち―20世紀絶滅動物の記録 1996年12月

 絶滅動物約90種の生態や絶滅経緯について解説する本。

 これはまぁ、なんかもうタイトル見ればわかるわってって感じだけど『魔法使いの夜』のリョコウバトのエピソードの種本。

 『まほよ』で久万梨が語っていた内容、「その国最小の通貨一枚で売買される命」「まだ25万羽もいるじゃないか、千羽や二千羽ぐらいなら独り占めしても構わないだろう」みたいな久万梨個人の感想を除けば基本的に全部ここに書かれている。

 この本の出版日が1996年12月1日、原作版『魔法使いの夜』の表紙に書かれている日付が1996年12月18日なのでギリギリこちらの方が早いけど、久万梨金鹿は原作版にはいなかったキャラクター(参考)って話もあるし、そもそもあまりにギリギリすぎるのでリョコウバト云々ってゲーム版で追加された新規エピソードなんだろうなとは思う。

 ただ、この本は1995年~1996年に放送されたテレビ番組(ウェブ上で無償公開されている)が大本なので、きのこがこちらを先に見ていた可能性はある……というか、「1996年12月に書かれた小説を2012年にリメイクする時に入れた追加エピソードが、偶然にも1996年12月に出版された本から取られている」より「原作版を書いている時テレビで見たエピソードをそのまま使ったので必然的に同時期になった」の方が説得力あるような気もする。

 まぁどちらにしろリョコウバコのエピソードは『月の珊瑚』でも軽く触れられているので少なくともきのこが2010年以前に読んでいたことはわかる。

 

Truth In Fantasy 24 召喚師 1997年4月

 Truth In Fantasyシリーズ24冊目。著者は高平鳴海 他。

 ドルイドやカバリスト、錬金術師、陰陽師、ラビなど様々な召喚師について、特に高名な人物(パラケルスス安倍晴明)の紹介も交えながら紹介していく本。

 きのこ作品に関係する要素だとドルイド(マーリン)、ラビ(ソロモン王)。あとは数秘術やルーンにもちょっと触れられたりしている。

 今読むとめちゃくちゃ怪しい情報がさも確固たる事実かのごとく書かれているせいで読んでて「う、胡散臭ぇーっ!」みたいな気分になる。「魔術分野でのマーリンの功績にインスタント呪文を開発して魔術を万人が使えるようにしたことがある」とか。 

 ソロモン王は魔術師だったにも関わらず聖書にその事実が書いていないのを根拠にして「魔術の力を悪用されないように、ソロモンは死後、歴史の闇に身を隠したのかもしれない」としているのはちょっと型月解釈に近いかもしれない。


アーサー王伝説 1997年10月

「知の再発見」双書シリーズ71冊目。著者はアンヌ・ベルトゥロ。

 アーサー王伝説の成り立ちや発展の仕方を解説した本。

 『Fate』シリーズにおけるアーサー王伝説の種本……なんだとは思うんだけど、どこにこの本の内容が反映されているのかよくわからない。アーサー王のモデルになった人物の話とかもこの本と『Fate/stay night』で全然別のこと書いてあるし……。

 まぁこの本の内容をそのまま使ったらアーサー王って後世のノルマン人が権威付けのために宣伝したプロパガンダ伝説ってことになる上、伝説の存在を認めたとしてもアーサー王って基本的に前線に出たりしない王権の象徴ってことになるので、種本として使いようがないといえばない気もする。じゃあなんで本棚に置いてあるんだろう。

 まぁアーサー王伝説絡みはまだ『FGO』2部6章って大ネタが残ってるのでもしかしたらそこで使われているのかもしれないけど。 


Truth In Fantasy 33 守護聖人 1997年12月

 Truth In Fantasyシリーズの33冊目。著者は真野隆也。

 キリスト教の聖人約60人について解説する本。洗礼者ヨハネや聖ペテロなんかの紹介にはもちろんキリスト本人も登場している。

 マルタやゲオルギウス他色々載っているけど、きのこ関係だとマグダラのマリアと、後はせいぜい聖セバスティアヌスの解説の中でク・フリンに触れているぐらいしかネタがない。

 いまいち何に使われている本なのかよくわからないけど、キリスト教に関してはなんか未発表の設定がだいぶ量ありそうな気配がしてる(聖堂教会年表あったりとか)のでそのあたりに生かされてるのかもしれない。


大塚国際美術館 西洋絵画300選 1998年

 古代壁画から現代絵画までの西洋名画1000点の原寸大陶板を展示した「大塚国際美術館」の図録。2020年販売終了済み。

 構成としては「環境展示」「系統展示」「テーマ展示」の3章に分かれているけど、ページ数としては時代順・様式・流派に分けて系統的に並べた「系統展示」が全体の3/4を占めていて、いわば名画でたどる西洋絵画史とも言える本になっている。

 あくまで美術館の展示をまとめた本なので、単体で読むと絵が小さくて細部が見づらいのがちょっと気になる(「アレクサンドロス大王の戦い」とかもはや何がなんだか全然わからん)。これきのこは美術館行った上で読んだのかこの本だけ読んだのかどっちなんだろうか。

 画家鯖の中ではダ・ヴィンチゴッホの絵が収録されているけど、設定担当が前者は桜井光で後者は多分amphibianなのであまり関係ないのかな?(ロリンチの方はきのこ鯖なんじゃないかとも思うけど……)

 これからきのこ製の画家鯖が登場するのか、もしくは絵のモチーフの方を参考にしているんだろうか。

 前者については後述の『脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界』でタイトルに使われているピカソとモネ(特に1章丸々割かれているモネ)や比較的扱いが大きいモンドリアンとかがちょっと怪しいかもしれない。

 後者については中世西洋絵画の歴史はほぼキリスト教の歴史なので聖書のエピソードや教義についての解説もちょくちょく挿入されているし、他にも「マグダラのマリアは赤い服を着ている」がマグダラの聖骸布に反映されたりしているかもしれない。キリスト教以外なら歴史画でアレクサンドロス大王ギリシャ神話でペルセウスとかもある。 

 

Truth In Fantasy 37 イスラム幻想世界 1998年6月

 Truth In Fantasyシリーズ37冊目。

 イスラム文化圏が形成されるまでの経緯と、その文化圏内の怪物・英雄・魔術を解説した本。

 具体的な使われ方としては多分ハサン・サッバーハイスカンダルの種本。

 「ハサン・サッバーハ」「ザバーニーヤ」「シャイターン」と『stay night』時点での関連名詞が全部1冊の中に出てくる上に訳語も一緒だ。

 本のタイトルからすると結構意外なんだけど「イスカンダル -双角の征服王-」は何気に6ページも割かれている。

 きのこが征服王イスカンダルの名前をアレキサンダーでもアレクサンドロスでもなくイスカンダルにした理由、今までよくわかってなかったけどこの本が元ネタなのでは。というか征服王って二つ名自体がこれ由来だったりするのか?

 他にも「アズラーイール」や「アハリマン」「アヴェスター」「アジダハーカ」が出てくるけどこれはあんまり関係ないか。 

 アジダハーカなんて「苦痛。苦悩。死を表す悪竜」って情報すら書いてない。


最新 文学批評用語辞典 1998年8月

 1900年代後半から急激に複雑化していった文学批評の用語について網羅的かつ簡潔に解説した辞典。

 これは……なんだろうね。全然わからん。「音声中心主義」「自意識的語り手」「ニュー・アメリカニズム」「零度のエクリチュール」とかの文学批評用語に対する解説がどうきのこ作品に使われているのか?

 一応「起源」「テクスチャー」、あとは「投射(投影)」みたいなきのこ用語も項目が立てられてるけど流石に関係ないよなぁ。後はアリストテレスへの言及も多いけどこれもちょっと関係あるとは思えない……。

 この本がきのこ作品にどういう形でフィードバックされているのか、思いついた人がいたら誰か教えて下さい。 

 

心理学辞典 1999年1月

 4000項に渡り心理学の概念・理論・方法・技法・人名を解説した心理学辞典。

 心理学辞典という割に全然関係なさそうなランドルト環(視力検査のやつ)とかも項目が立てられているのがちょっと面白い(なんで……?)

 何気にこの本、明確にきのこ作品の記述を否定している部分があって、具体的に言うと『空の境界』や『月姫』における「記憶とは脳が行なう銘記、保存、再生、再認の四大のシステム」っていう記述が完全に間違っている(正しくは銘記、保存、再生の三段階)。

 なぜきのこがそんな間違いをしたかと言えばこれは明らかで、「島田荘司の『異邦の騎士』にそう書いてあったから」だろう。『異邦の騎士』も本棚に置いてあるし。

 この『心理学辞典』と『空の境界』と『異邦の騎士』を読み比べることで誰でも「小説を書く時の資料には他の小説ではなくちゃんとした物の本を使おう」という教訓が得られるぞ。

  

バッティングの正体 1999年5月

 著者の考える「正しいバッティングフォーム」を科学的に解説する本。著者は手塚一志

 『DDD』2巻「S.vs.S」の種本・バッター編。

 「S.vs.S-2」冒頭の「シンクロステップ、テイクバック。 ムーブ、トップ、インパクト。」って文章、さも一般的な用語かのごとくシンクロステップが使われているけど、実際はどうもこの本が作った独自用語っぽい。

 あとは「バッティング動作は人体に備わっている生物として自然な運動」とかにもこの本の影響を感じる。 

 後述の『野球の最新練習法』『ピッチング革命』と続く野球系種本3冊、なんかめちゃくちゃ露骨にこれらの本で調べた内容が作中に反映されているあたり、きのこマジで野球を一切知らないまま『DDD』2巻を書いたことが窺える。というか2004年の竹箒日記で野球を知らないってはっきり言ってるし…… (それでシンカーvsスラッガーが書けるの、天才じゃん)。

 

図説 大聖堂物語―ゴシックの建築と美術 2000年7月

 ゴシック建設と大聖堂の歴史やキリスト教にとっての位置づけ、ステンドグラスや彫像に描かれた聖書のエピソード読解等について解説する本。著者は佐藤達生、木俣元一

 きのこ作品で大聖堂って言うと聖堂教会とかメレムの四大の悪魔とかが思い浮かぶけど、多分そういうのとはあんまり関係なく『Fate/hollow ataraxia』のステンドグラスの種本。大聖堂の美しいバラ窓がカラー写真で紹介されているので。

 タイトル的にステンドグラスの写真が見たくて手に取る本だとも思えないので、聖堂について知りたくて買ったらノートルダムのバラ窓を気に入って天の逆月のビジュアルに採用……みたいな流れだったんだろうか。

 

脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界 2002年2月

  神経科学者である著者が当時最新の知見を元に脳が美術作品を鑑賞するためのシステムについて解説した本。著者はセミール・ゼキ。

 この「当時最新の知見」というのがクセモノで、原著が1988年刊ともう四半世紀近く前に書かれた本なので、「まだ詳しいことはわかっていないがいくつかの仮説は提唱されている。筆者の考えでは~」みたいな文章が出るたびに「これ、今はどうなってんの?」みたいな疑念が頭をよぎり話に入り込めない。

 きのこがいつ読んだのかはわからないけど、流石に2021年に読む本じゃないかなぁという感じはちょっとあった(いや神経科学のことなんて全く知らないので、もしかしたらこの本の時代から全く進歩なかったりするのかもしれないが……)。

 まぁそのあたりを気にしなければ多分面白い本ではある。読むのにめちゃくちゃ時間かかったけど。10日くらい。

 個人的にはどこに美術的価値があるのか全く理解できなかった抽象画を「脳の傾き選択性細胞だけを刺激する美術」で理解できるようになったのがよかった。

 タイトルこそ「脳は美をいかに感じるか」だけど、内容的には「脳は外界をいかに認識しているか」とかの方が多分近い。

 脳の視覚野は「色」「傾き」「動くもの」「人の顔」とか様々な認識モジュールに分かれていて、それは脳の一部に障害を負った人間が色盲や運動盲、相貌失認を起こすことで証明される……みたいな話がメインで、あまり美術関係の種本という雰囲気はない。

 そのあたりの脳の話って特にきのこ作品でフィーチャーされたことはない気がするけどこれから使われたりするんだろうか。

 強いて言うなら『空の境界 未来福音』の「"視覚で得たすべての情報"を拾うと脳に負担をかけてオーバーフロウしかねない」って記述なんかはこの本の内容に近いかもしれない。


決定版 毎日のおかず 2002年6月

 「新家庭おかず」「和風家庭おかず」「洋風家庭おかず」「中華風家庭おかず」「もう一品の簡単副菜」の5種類に分類されたメニューが掲載されたレシピ本。

 どうも『Fate/stay night』の料理メニューの種本らしくて「青椒牛肉絲」「かに玉」「鮭の照焼き」「いかのエスニック焼き」「チキンのクリーム煮」「えびの包み蒸し」「かに風味かまぼこ入り五目茶わん蒸し」とかこの本由来っぽいメニューはちょくちょく出てくる。

 いや最後の茶碗蒸しぐらい露骨な奴はともかく、かに玉や鮭の照焼きはあまりにも普通のメニューすぎてこの本が元ネタだとは言いづらいが……。

 というかこの茶碗蒸し、料理名をよく見れば分かる通り「かに風味かまぼこ」、要はカニカマ入り茶碗蒸しのことなんだけど、『Fate/stay night』の描写だと「藤ねえカニを買ってきたから茶碗蒸しを作ろう」「じゃあ作るのはカニ風味かまぼこ五目ですね」という流れなので、どう見ても本物のカニが入っている。

 奈須きのこ、もしかして……料理名と写真ぐらいしか見てない……!? 

 この本の出版日2002年6月はだいたい『stay night』の本編執筆開始タイミングと一致している(体験版シナリオ脱稿が2002年5月*3なので)っぽいあたり、直近で出てた家庭料理の本をとりあえず一冊買ってみたみたいな雰囲気を感じるし、「夕食のシーンを書くのは正直面倒くさかった*4」って発言もあるし、奈須きのこ、料理に興味一切なさそう。 

 

ねこは青、子ねこは黄緑―共感覚者が自ら語る不思議な世界 2002年7月

 共感覚者である著者が共感覚の医学的根拠や過去の作家たちが持っていた共感覚、そして自身の共感覚体験などについて語る本。著者はパトリシア・リン・ダフィー。

 『428 〜封鎖された渋谷で〜』ボーナスシナリオ カナン編(『CANAAN』)の主人公カナンが持つ能力・共感覚の種本その1。

 カナンの持つ共感覚、ほとんど超能力じみたアンサートーカー的な力として描かれているので実在の共感覚者を扱うちゃんとした資料にあたって書かれていたこと自体が意外。

 そもそも「カナンが強いのは共感覚のおかげ」っていう設定を考えたのはきのこではなく『428』ディレクターのイシイジロウらしい*5ので、資料の1冊や2冊読まないと書く取っ掛かりすらつかめなかったみたいな奴だろうか。

 内容的にもあまりカナンの設定に反映されているようには見えない……というか、なんなら『未来福音』の「本来、世界というのは五感全てを用いて、すべてが連結した〝統合(ひとつ)〟の象として捉えるのが正しい。(中略)五感をそれぞれ単一の機能として使い始めた」あたりの方に直接的な影響が出ていそう。

 この本の記述だと「乳児の未発達な脳は五感の刺激を区別せず一つの統合されたパターンとして受け止める(ほとんどの人は成長すると感覚分化する。しないと共感覚者になる)」って説明なのでニュアンスはちょっと違う気もするけど、『428』(2008年12月)と『未来福音』(2008年8月)は発表が同時期なので『428』ボーナスシナリオ書くために共感覚について調べて『未来福音』にフィードバック、みたいな流れがあったんだろうなとは思う。

 

野球の最新練習法―筋トレからメントレまで 2002年9月

 野球選手の行うべき筋力トレーニングやメンタルトレーニング、ストレッチについて解説する本。著者は高畑好秀。

 『DDD』2巻「S.vs.S」の種本・トレーニング編。

 いや、霧栖のバッティング描写のために『バッティングの正体』を読むのも、鋳車のピッチング描写のために『ピッチング革命』を読むのも理解できるんだけど、これは読む必要なくない……?

 と思いつつ、作中にはちゃんとシンカーVSスラッガーの「脳は助け合う器官」「左耳で音を聞いて映像を処理する右脳に伝える」とか明らかにこの本の内容が反映されている。

 


英語の感覚と表現―共感覚表現の魅力に迫る 2004年2月

 英文学の共感覚表現を中心に感覚・表現についての研究論文16篇をまとめた専門書。編著者は吉村耕治。

 『ねこは青、子ねこは黄緑』に続く共感覚の種本その2(なのか?)。

 一応はしがきに一般書としての利用も考慮されているとは書かれているが、基本的には専門書の類でそこらへんの県図書館・市図書館には置いてないような本なので「なんでこんなもん読んでんの?」というのが純粋な疑問。本棚の中だとこれと『女神転生2のすべて』が入手難トップ2だと思う(どっちも金額を気にしなければAmazonでプレミア付き7500円で買える)。

 というかこの本、まず根本的に共感覚の研究書でもなんでもなく英文学の研究書だし、タイトルにある「共感覚表現」っていうのも「甘い香り」「黄色い声」みたいな比喩的な表現を扱うのがメインなので、共感覚者の描写に参考になりそうな雰囲気は全くない。

 題材になってる作家もエミリー・ブロンテ、トーマス・ハーディ、D.H.ローレンス、スコット・フィッツジェラルドヘミングウェイ宮沢賢治吉本ばななとかできのこが読んでそうなイメージ一つもないし。

 マジでどういうきっかけでこの本を……。 

 

型の完成にむかって 2005年2月

 女性初の弓道十段(出版当時は八段)である著者が自身の型や射法八節に対する解釈、修練方法などを解説した本。著者は浦上博子。 

 内容的にはあくまで弓道経験者(著者によれば「中級くらいの方」)に向けて書かれた本なのでどう考えても僕みたいなド素人が読む本ではなかった。

 初版が出版されたのは1998年だが本棚に入っているのは2005年に出版された普及版の方……だと思うんだけど、それだと2004年の『Fate/stay night』に間に合わない。イメージ再現と言うことでそこまで細かい部分は再現していなかったのか、もしくは普及版だと思ってるのは僕の勘違いかもしれない。

 『Fate/stay night』以外の作品にこの本の影響は何も感じないけど、『Fate/stay night』には「中貫久」「中要秘刊集」「日に二百以上の矢数をかけよ、その他は弓放しにすぎぬ」「中ると中てる」とか色々あるので。

 特に作中で士郎や藤ねえが当たり前のように言及している中要秘刊集とか、ググっても全然詳細が出てこなくて結構なマイナー資料っぽいのでこれが種本と断じてもよさそう。なんだこれ、日置流の古文書とかなの?

 

ピッチング革命 2005年3月

 「捻り」を重視したピッチングフォームについて解説する本。著者は中村好治。

 『DDD』2巻「S.vs.S」の種本・ピッチャー編。

 シンカーvs有島将吾での「それは美しい連動だった」から始まるフォーム描写なんかはこの本が定義している「正しいピッチングフォーム」を見ながら書いたんじゃないかと思う。美しいフォームがどういうものなのかわからなければ美しいフォームは描写できないってことだろう。

 あと「オーバースロー=本格投法」って書いてあるのに「本格投法」で検索しても用例が全然出てこないとか、「アンダースローは怪我が多い」が割とウソっぽい……とかもこの本読んで書いたんだろうなぁって雰囲気がある。

 

図解雑学 グリム童話 2005年6月

 グリム童話について図解を交えながら解説していく本。著者は鈴木満。

 基本的にはグリム兄弟の人生や周辺人物、グリム童話にしばしば登場するキャラクター類型などグリム童話の包括的な解説がメイン。

 個別の童話に対する分量は少ないけど、KHM120「三人の職人」はあらすじ読んだだけでもう明らかに面白かった。なんで今マイナー童話に収まってるのか全然わからない。

 この本の用途は『魔法使いの夜』8.5章「カーネーギ事件」で有珠がグリム兄弟について解説する(なぜかブラザーグリム呼びする)ところ……なのか?

 「多少は詐欺師めいたところもあった」とか何を指して言っているのかこの本を読んでもよくわからないんだけど……。

 あとは一応アンデルセンの名前も出てくるけど、本当にささやかなないようなのであまり関係あるとは思えない。。

 

なるほど仏教400語 2005年7月

 日常語・日用語になっているような物も含めて主要な仏教用語400語を解説する事典。著者は宮元啓一

 きのこ関係ワードだけでも「阿頼耶識」「阿摩羅識(無垢識)」「五停心観」「四弘誓願衆生無辺誓願度、煩悩無量誓願断)」「神通(神足通、他心通、漏尽通)」「転輪聖王」「貧者の一灯」「末那識」「魔(魔羅)」「唯識」なんかがある。

 きのこ作品の中だと『FGO』1部6章「キャメロット」の三蔵ちゃんのセリフに仏教用語が頻出する(乾闥婆、真如、声聞、隻手の声とかとにかく色々)のでこのあたりも多分全部元ネタこの本。

 400語の解説を通じて仏教の教義を読者に伝える建て付けになっている本なので、そういった個別の項目だけじゃなく本全体で覚者を始めとする仏教鯖描写の元ネタになっている可能性とかもあるかもしれない。

 あとは「愛」の解説の中に人類愛ってワードが含まれてたり、愛の次のページに悪があったりするのもちょっと面白い。

 ただしこの本は2005年出版なので『EXTRA』『FGO』はともかく『空の境界』……というか「阿頼耶識」の項目は多分あまり関係ない(無垢識が出てきたのは2010年の『EXTRA』だし、末那識が出てきたのは2011年の『未来福音』、唯識は2016年の『FGO』が初出のはずなのでこの本の影響を受ける余地はある)。

 一応この本は1987年に出版された『仏教400語おもしろ辞典』の改題新装版らしいので、『空の境界』執筆当時は図書館で借りて済ませていた本の新装版が出たので買った、みたいな可能性もあるかもしれないけど。

 

Truth In Fantasy 69 マヤ・アステカの神々 2005年9月

 Truth In Fantasyシリーズの69冊目。マヤ・アステカの歴史やマヤ神話の神々、アステカ神話の神々がまとめられた本。著者は土方美雄。 

 マヤ・アステカ系サーヴァントの種本その1。  

 マヤ・アステカの種本はもう1冊『古代マヤ・アステカ不可思議大全』があって、マヤ・アステカについての予備知識がないなら向こうの方から先に読むのがおすすめ。あくまで神々の紹介に軸足を置いているこちらの本より、向こうの方が地理や各都市の歴史の紹介が多くてわかりやすいので。

 あえて分類するならこちらが神様系サーヴァントの種本、向こうが人間系サーヴァントの種本とかになるだろうか(濃淡があるだけでこちらも歴史紹介はあるし向こうも神様紹介はあるけど)。

 

 『FGO』2部7章のマヤ・アステカ要素の種本としてククルカン、テスカトリポカ、トラロック(ウィツィロポチトリ)あたりを始めに、テペウ、イシュキック、ワク・チャン・カウィール、テノチティトランとかまぁ色々使われていそうだけど、具体的にこの本が元ネタになっていそうなのは「イスカリは成長という意味」「一般的な表記はモクテスマだけど敢えてモテクソマを使う」あたり。

 イスカリは英語版Wikipediaを見たら成長じゃなくてRebirthになっていたので結構独創的な解釈だったりするのかもしれない? もしくはWikipediaの方が適当書いてるだけかもしれない。

 

 『マヤ・アステカの神々』でも『古代マヤ・アステカ不可思議大全』でもアステカ人がエルナン・コルテスケツァルコアトルの再来と勘違いして戦意がくじけたエピソードが「これ後世の捏造じゃないの?」くらいの扱いされてるので『FGO』に採用されてるのは結構不思議。 

 まぁ一般に普及してるけど真偽が怪しい説を伝奇ものの設定に採用するのが悪いことだとは全く思わないけど……でも1部7章でケツァル・コアトルを「南米の女神」扱いしていたのはいくらなんでも純粋にミスだと思う。2部7章だとさすがに中南米に改められていた。

 

南山堂医学大辞典 第19版 2006年3月

 40000語が収録された分厚い医学用語辞典。最新版は2016年に出た20版なのでその一つ前のバージョンになる。

 まぁさすがに全部読む気はないにしても、一応パラパラ読むくらいはしてみたんだけど、何に使われてるんだろこれ……。

 2006年以降に登場した病気キャラ、殺生院キアラとあとはせいぜいアムネジアシンドロームくらいしか思いつかない。怪我なら『DDD』の鋳車、あとは『まほよ』で青子や有珠や草十郎が作中で結構派手に傷ついてたりとか。

 そういう描写を書く時にこの本が役に立っている……のか? 2006年以降に限定しなければ藤乃の無痛症とかあるけど。

 

紅茶の事典 2007年1月

 紅茶の歴史や茶葉についての基礎知識、美味しい淹れ方等紅茶の知識をまとめた入門書。

 同じ出版社から出た同系列の書籍に『紅茶の事典』(1995年)、『おいしい紅茶の時点』(2002年)、『紅茶の大事典』(2013年)等があるが本棚に入っているのはこのバージョン。

 きのこ作品で紅茶淹れる描写は一応『stay night』や『hollow ataraxia』にもあるけど、この本は2007年発刊なのでそれ以降、つまり『魔法使いの夜』……というか有珠用に買った本っぽい。まぁ有珠の紅茶好き設定がストーリー内に組み込まれているのに比べると凛の紅茶好きなんかはせいぜいフレーバー程度の扱いなので当たり前といえば当たり前か。

 『まほよ』での具体的な用途としては「イギリス人の紅茶は1日7回」とか「イギリス人も最初はグリーンティーが主流だった」みたいな紅茶豆知識、あとは茶葉のブランドでフォートナム&メイソンやフォションの名前が出てきたりとかもする。 

 『月姫リメイク』前編でも「マリアージュはフランスの店で創業1850年頃」「ダージリンのファーストフラッシュとセカンドフラッシュ」みたいな紅茶ネタはあるのでこれもこの本が元ネタかもしれない(マリアージュの日本上陸は15年前とかはこの本には多分載ってない情報だけど)。


図説 武器術 2007年3月

 タイトルの通り、日本と中国の様々な武器を使用した武術の技を図に示しながら解説する本。著者は小佐野淳。

 槍・刀・薙刀のようなメジャー武器術から鎖鎌・独鈷・鉄扇のようなマイナー武器術まで(というか9割くらいイロモノ、名前すら知らない武器もちょくちょくある)色々解説しているけど、きのこ作品にそんな武芸百般をウリにした本部以蔵みたいなキャラいないと思うので何に使われているのかよくわからない。

 一応普通の刀使った剣術とかも載っているし、宮本武蔵の二刀流についても軽く触れているとはいえ、そういうのが知りたいならもっと専門の本でいい感じの奴があるんじゃないかと思うが……。

 無理やり想像するなら、馬鞭術とか斬馬刀術とか個別の武術のことが知りたかったわけじゃなくて、実在の武器術を学ぶことで戦闘描写の説得力を上げたかっただけ……とかそういう感じの奴だろうか。『FGO』や『EXTRA』シリーズだとゲームパートに代替されて文章による戦闘描写がほとんどないので、2007年以降にきのこが書いた戦闘シーンのテキストってかなり限られているような気がするんだけど。


生物と無生物のあいだ 2007年5月

 分子生物学の歴史や過去の偉大な生物学者たち、著者の個人的なエピソード等を交えながら生物の細胞が持つシステムについて解説する本。著者は福岡伸一

 単純に著者の文章が上手いので読んでいて楽しい。本筋には一切関係ないニューヨークの通奏低音の話とか。

 あと今読むとめちゃくちゃ耳馴染みのあるPCRとか相補性とかについても詳しく解説されているのがタイムリーな感じでちょっと面白い(いやエヴァの言う相補性が量子力学の奴なのか分子生物学の奴なのか、僕はいまいちよくわかってないんだけど)。

 きのこ作品への具体的な使われ方としては、『月の珊瑚』の「DNAは対構造になっていて片方が失われてももう片方が複製(ほけん)を担う」あたり。

 「『月の珊瑚』は遺伝子と恋の話」「遺伝子の紐はそれぞれ上下が逆で片方が登り片方が落ちる」って発言もある*6あたり、どうもこの本で得た知識が『月の珊瑚』全体のモチーフになっているっぽい。

 あとはもしかしたら『FGO』6章のビーストII・ティアマトが持つ能力「塩基契約(アミノギアス)」「細胞強制(アミノギアス)」とか、第五魔法の消費/消滅の理が云々って設定にエントロピー増大の法則に関する話(生物がエントロピー増大の法則に反する方法はパーツが壊れる前に分解再構成を繰り返すこと)が使われてたりとかも……?


魔獣大百科 2007年5月

 魔獣について解説した本。 

 いやこれを種本として使うの、流石にどうかと思うんだけど……。

 構成としては各魔獣を文章1ページ・イラスト1ページで紹介した前半パートと、「聖書の中の魔獣」「北欧神話」「インド神話」など体系ごとに魔獣の原典を解説する後半パートに分かれている。

 タイトルこそ『魔獣大百科』だけど、実際読んでみると後半の各神話大系解説の方が明らかに文章量が多くて存在感が強い。

 前半にイラスト付きで紹介されているものできのこキャラだとせいぜいリヴァイアサンとキュウビコくらいしかない。あとはフェンリルとか……。

 キュウビコの解説にある「この狐はインドでダーキニーと同一視され、日本では荼吉尼天と呼ばれて稲荷信仰と集合した」なんかは玉藻の前の設定の元ネタになっているかもしれない(『EXTRA』設定では荼吉尼天から更に天照までつながっていくけど)。

 非きのこキャラを含めればアキレウスヴリトラ、アルゴノーツ、パラケルスス、ヒッポグリフ、ミノタウロスとかまぁ色々出てくるし、モブ敵も含めればドラゴン、ワーウルフ、キマイラ、ケルベロス、ラミア、ケルピーなんかもか。

 

プログレッシブ・ロック入門 2007年8月

 プログレ5大バンド(ピンク・フロイドエマーソン・レイク&パーマー、イエスキング・クリムゾンジェネシス)の紹介を中心として、プログレッシブ・ロックとは何か、プログレッシブ・ロックはどう楽しむものかを伝える入門書。

 きのこ作品でロックというと「貴方、ロックスターみたい」が一番最初に出てくるけど、『hollow』より後に出た本なので特に関係はないらしい(そもそもプログレにロックスターっぽいイメージがない)。

 他だと青子(きのこキャラ以外含めればカドック)なんかもロック聞いてるけど、別にプログレの話はしてないのでなんのための本なのかよくわからない。

 一応『まほよ』の番外編「誰も寝たりしてはいいけど笑ってはならぬ」で「橙子はプログレ好きと他人には偽っているが実際は演歌が好き」ってシーンがあるけど、あんなギャグのためだけに読むのか? これ? というかその場合読まなきゃいけないのはプログレの入門書じゃなくて演歌の入門書では……!?

 

居合道名人伝 2007年10月~2009年3月

 1990年から1993年にかけて『剣道日本』で連載された記事(+書き下ろし1つ)、昭和の居合道名人17人の列伝と2人のインタビューをまとめた本。著者は池田清代。

 内容的にはあくまで元から居合道知識のある人間に向けて書かれた本って感じで、ぜんぜん知らない居合道名人の老人たちの名前がガンガン出てくるので読むのが結構辛い。

 全員活躍した時代が同じなので「中山博道に師事した」「敗戦で剣道教師の仕事をなくして苦労した」「全日本居合道連盟結成に関わった」「制定居合作成に関わった」とか似たようなエピソードが毎回のように出てくる。『型の完成にむかって』でも思ったけど、こういうのちゃんと読めてる奈須きのこ勉強家やね。

 きのこ作品で居合キャラといえば舌切雀の紅閻魔だけど、「閻雀裁縫(抜刀)術」なんて冗談みたいな設定のためにわざわざこの本読まなくない……? 『まほよ』の文柄詠梨のために読んだ本とでも言われたほうがまだしも納得できるんだけど(いや文柄詠梨のバトルスタイルが居合なのかどうかすら知らないが……)。

 まぁこの本を読んだ感じ、居合道って抜刀術そのものがどうとかよりも「竹刀を使う剣道と違って刀を使う武道」って側面の方が強そうなので、そういう意味では居合キャラに限定せず刀キャラ全般の種本と呼べるかもしれない。

 あとは二天一流八代宗家・青木規矩男の話とかもあるけど、特に二天一流の術理が解説されたりするわけでもなく武蔵ちゃん描写の参考になっているかどうか。


イギリスのティーハウス 2008年10月

 著者が訪れたことのあるイングランドティーハウスを紹介した本。著者は小関由美。

 これも多分『紅茶の辞典』と同じで有珠の種本なんだと思うけど、『まほよ』にティーハウスなんて出てこないのでなんでこの本を買ったのかよくわからない。

 紅茶を好きな人がいっぱい出てくる本を読んで紅茶が好きな人の気持を学ぼう、みたいな話だろうか……。

 

萌え萌え妖怪事典 零 2009年8月

 妖怪について解説した本。

 いやこれを種本として使うの、流石にどうかと思うんだけど……(その2)。

 北海道から九州まで各地の妖怪を(美少女化して)解説する妖怪事典で、妖怪伝説の作成経緯や有名な妖怪ハンター、中国妖怪などについての解説も付属している。

 型月作品に出てくるものは丑御前、鬼女紅葉、鈴鹿御前、鞍馬天狗清姫刑部姫と色々あるが、この内きのこ鯖なのは丑御前だけ(正確には丑御前(源頼光)が「設定作成:桜井光奈須きのこ」、鞍馬天狗(鬼一法眼)が設定担当未公開)。

 ただ『FGO』初出鯖の鬼一法眼、清姫刑部姫に関しては実際の設定作成以前、登場サーヴァント選定の段階できのこがこの本使っていた可能性はあるかもしれない。刑部姫はきのこ鯖武蔵ちゃんとの絡みもあるし、鬼一法眼は弟子の牛若丸が「設定作成:東出祐一郎奈須きのこ」だし。 

 あと項は立てられていないけど大百足の関連で俵藤太、妖狐の関連で玉藻の前(白面金毛九尾)にも触れられている(俵藤太は「設定作成:奈須きのこ東出祐一郎」)

 俵藤太の解説は大百足の方がメインなこともあって一般的なことしか書いてないけど、源頼光のほうは結構分量が多くて頼光四天王とかにも触れてるし、「源頼光の弟、または妹」「正体は武将説とスサノオ説があり、スサノオの場合は神仏習合で=牛頭大王になる」とかこの辺りの記述をこねくり回して丑御前の設定作ったのかなぁって見える部分がある。

 源頼光の女体化はきのこにしても相当無茶振りだったらしい(参考)ので、こういう萌え萌え本にネタ出しを頼りたくなる気持ちもわからなくはない(そうかな?)。

 

古代マヤ・アステカ不可思議大全 2010年5月

 マヤ・アステカの他、オルメカやテオティワカンなどメソアメリカに存在していた文明の歴史や文化を紹介する本。著者は芝崎みゆき。

 マヤ・アステカ系サーヴァントの種本その2。

 読み始めるとまず文字が全部手書きでイラストも頻繁に挿入される構成にちょっと面食らうけど慣れると意外と普通に読める。

 だいたい『マヤ・アステカの神々』の方でまとめて説明してしまったのであんまり言うこともないけど、『マヤ・アステカの神々』に書いていなくてこちらに書いてある要素だと「フラカンがハリケーンの語源になった」「クアウテモクの意味は急降下するワシ」「テスカトリポカには黒・白・赤・青の4種類いる」とか。

 

てにをは辞典 2010年8月

 文章で説明するより実際に中身を見たほうがわかりやすい、わりと最近Twitterでバズっていた本。

 これはまぁ、具体的にどこというわけでもなく作品全般の中で語彙を増やすために使われている本……なんだと思うんだけど、めちゃくちゃ取り出しづらそうな所に置いてあるのでちゃんと使っているのかは謎。

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 まぁあくまでイメージ再現ってことだし本の並びまで実際のきのこ室内を再現しているとは限らないので、本当はもっと取り出しやすいところに置いてあるんだろう、多分……。 

 

from everywhere. 2011年2月

 『空の境界』の両儀式や『428』(『CANAAN』)のアルファルド役、『FGO』の主題歌など様々にきのこ作品へ関わっている坂本真綾のヨーロッパ旅行記

 きのこが自作の主題歌に使って気に入った歌手枠の本・その1(多分)。

 両方とも坂本真綾が書いている以上当たり前といえば当たり前なんだけど、文章の中にサラッと坂本真綾作詞っぽいフレーズが入るのがちょっと面白い。

 将来水没すると言われるベネチアについて書いた「いつか消えてしまう運命と知っているからこそ、あんなにはしゃいでいるのだろうか」とかめちゃくちゃ『色彩』の「いつかは失うと知ってるから あたりまえの日々は何より美しい」の原型っぽい。 

 

ゲームシナリオのためのSF事典 2011年4月

 「科学技術」「巨大構造物」「生命」「世界・環境」「宇宙」「テーマ」の6章に別れた110項目のSF用語を解説する辞典。著者は森瀬繚 他。

 きのこ作品に関係するものだと「タイムトラベル」「AI」「電脳空間」「パラレルワールド」とかがあるけど、全項目2ページしか使われていないのもあってかなり初歩的な内容しか書いてないし、何に使われている本なのかよくわからない。

 ライターに森瀬繚桜井光東出祐一郎小太刀右京が関わっているのでその流れで置いてあるだけとかかもしれない。

 強いて言うならスターシードの項目にある宇宙から隕石に乗ってきたウイルスが人類を進化させたかも説がケツァル・コアトルと言うか型月世界のアステカ神設定に影響を与えていたりするかも。

 あとはダイソン球の項目とかもあるので、もしかしたら天球型時空要塞カオスの元ネタになっていたりするかも(カオスの設定作ったのが担当ライターじゃなくてきのこなら)。

 一応オールトの雲についても1行くらい触れているけどこれはまぁ関係ないだろう。もしもこの本できのこがオールトの雲の存在を初めて知ったなら、『Character material』(2006年)時点で「水星(?)のアルテミット・ワン」とか書いてたの一体何を想定してたんだって感じになる。

 というかきのこがオールトの雲を知ったの、『星界の紋章』なんじゃないかと思うんだよな。ちょうど本棚に置いてあるし。少なくとも2002年時点でもう読んでることがわかってる*7し。 

 

Kalafina Record 2011年9月

 『劇場版 空の境界』や『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』のエンディングテーマを担当した音楽ユニット「Kalafina」の足跡を辿る本。

 メンバー3人とプロデューサー梶浦由記のインタビューや梶浦由記による全曲解説が収録されている。

 きのこが自作の主題歌に使って気に入った歌手枠の本・その2。

 前述の坂本真綾の本に比べてもマジで書くことがない。一応奈須きのこ本人への言及もあるけど、それも「『fairytale』の歌詞に忘却録音序文の引用を快諾してくれた」「『snow falling』の歌詞に終章のラスト(雪の日を唄いながら)の引用を快諾してくれた」くらいだし……。

 

メフィスト 2012 VOL.1 2012年4月

 講談社から発行されている文芸誌。

 その文芸誌の中でこの号だけが本棚に入っている理由は、多分掲載されている小説ではなく「講談社ノベルス創刊30周年記念企画 My Precious 講談社ノベルス」によるもの。

 作家44人がそれぞれ「自分が初めて○○した講談社ノベルス」というテーマでコラムを書いていて、その内の一人が奈須きのこ

 コラム自体はまぁ普通のきのこポエムという感じなので、多分好きな作家(綾辻行人とか殊能将之とか?)と名前が並んでて嬉しかった記念で本棚に置いてある奴では。

 ちなみにそのコラムはメフィスト公式サイトでも読める(内容は雑誌のものと微妙に違うけど、雑誌版はページに収める都合でカットされてるだけでWeb版の方が正式版に見える)のでこれ買った意味は特になかった。 


ゲームの流儀 ゲームクリエイターロングインタビュー集 2012年6月

 2001年6月から2007年12月までゲーム雑誌『コンティニュー』に掲載されたゲームクリエイターインタビュー16個をまとめた本。『ファイナルファンタジー』の坂口博信、『MOTHER』の糸井重里などの他、奈須きのこ本人のインタビューも収録されている。

 これもまぁ多分上述のメフィストと同じで、好きなゲームの製作者と同じ本に同じゲームクリエイターとして載れて嬉しかった記念の本とかなのでは。具体的にはギルガメッシュの金鎧の元ネタ『ドルアーガの塔』の製作者とか?

 ちなみにきのこインタビューは雑誌掲載時と内容が微妙に変わってて、きのこのTRPG時代が「18~22歳ぐらいのころ」から「16~24歳ぐらいのころ」に訂正されている。いやまぁ後者のほうが正しいんだろうとは思うけど、かなりどうでもいい変更では……(逆にわざわざここが訂正されているってことは他の部分には記憶違いとか誤記とかないと思っていいのか?)


宇宙のはじまりの星はどこにあるのか 2013年4月

 観測天文学者である著者が自身の研究テーマ「宇宙のはじまりの星」について解説する本。著者は谷口義明

 前述の『宇宙の起源』に続く宇宙系種本その2。

 帯にも引用されている「宇宙の膨張速度が光速を超えてしまった遠い未来では、たとえ新たに人類以外の知的生命体が生まれたとしてもその生命体が宇宙の全貌を知ることは不可能だ。我々はまだ宇宙の全貌を知ることができる立場にあるのだからそれを行うのは知的生命体としての使命だ」っていう理屈が好き。

 内容的には天文学者の宇宙観が技術の発展でどんどんアップデートされていく歴史や恒星・銀河の成り立ち、深宇宙の観測方法などについて書かれているんだけど、「10-34cm」「インフレーション」「夜が暗いのはなぜか」とか『宇宙の起源』とはかなり重複している。

 ただ赤方偏移についてふれているのはこちらだけのはず。まぁ『月姫リメイク』前編の「何よりも未しい、何よりも移ざかる、真紅の宙が放出される」が本当に赤方偏移のことを言っているのか、僕はいまいち自信がないんだけど……(■■■■■■って何?)。

 

怪物の本 普及版 2013年9月

 世界の民話館シリーズ第5巻。怪物をテーマにヨーロッパやアフリカなど世界各地から集められた民話12篇が収録されている。著者はルース・マニング=サンダーズ。

 元々は1981年に出版された本が2004年に復刊ドットコムから再出版されたもので、本棚にあるのはそこから更に2013年に再販された普及版(多分)。

 「人間と怪物の交友は、奈須きのこにとって常に魅力的なテーマ」とのことなのでその関係で置かれた本……なのか?

 交友という意味では怪物と擬似親子になる「銅のひたいを持つ怪物」、怪物と友人になる「金の谷」とかもあるけど、怪物と恋愛するのは「歌う木の葉」一作しかない。

 そしてこの「歌う木の葉」はディズニー版アニメ映画でも有名な『美女と野獣』の原作……の別地域(チロル)に伝わってる版民話。

 どうも地域差を抜きにしてもディズニー版ではいろいろアレンジが加わっているらしいけど、それでもディズニー映画版を見たことない僕ですら読んだ後「あっこれ『美女と野獣』の元ネタかな?」と思うくらいにはわかりやすく『美女と野獣』している。

 ここからはかなり大胆な想像になるけど、もし「歌う木の葉」が理由でこの本が本棚に入っているなら、きのこはこの本を読んだ時『美女と野獣』のことを全く知らなかった、つまりディズニー版『美女と野獣』公開(1991年)の前にこの本読んでいたことになるんじゃないか?

 もしかしてこの本、奈須きのこの怪物好きのオリジンだったりするのでは。

 きのこは1973年生まれらしいので、1981年版が出た当時8歳。小学生ぐらいの時に図書館・図書室でこの本を借りて読んだってのはちょうどありそうな年代ではある。 

 『月姫リメイク』前編に出てくる「志貴が幼年期に読んだ童話」(巨人の庭園において、迷い込んだ人間は例外なく無力であり、見つかったが最後、鼠のように潰されるだけ)もこの本かもしれない。

 そのものズバリって感じの童話はないけど(基本的に全部ハッピーエンドなので怪物は倒すなり和解するなりする)、一応「三人の若い羊飼いの話」「ペンタリーナ」あたりは人間が怪物に殺されるだけの弱者として描かれていてちょっと近いかも。


古代ギリシャのリアル 2015年1月

 後世の西洋人によって漂白された古代ギリシャ像ではなく、本来の「古代ギリシャのリアル」について解説する本。内容的にはオリュンポス十二神13体+ハデス・ペルセポネの紹介が大半を占めている。著者は藤村シンジ。

 『FGO』2部5章の種本……ではない。竹箒日記に「1~5章までの『異聞帯の世界設定』は担当ライターさんにお願いしたもの」(参考)って書いてあるので。

 ギリシャ系のきのこ鯖は『stay night』『hollow』からいるものを除くと疑似鯖カレンくらいしかいない(一応2部5章鯖はまだ設定担当不明……というかカレンもまだ不明だけど)し、この本にエロースの出番は少ないのでそっち方面で使われている感じでもない。

 ファミ通インタビューでは「2部全体の構想を考える時にギリシャについて調べた」(参考)とも書いているので、2部5章やサーヴァントの設定で使われた本ではなくて、各章の異聞帯をどこに置くか決める時に使われた本って感じだろうか。

 カオスの記述は「混沌と訳したのは古代ローマ以降、本来の意味はすきま(空隙)」くらいしかないけど、オリュンポスでの描写が「宇宙に於ける時空の空隙と一体となった超常の神」「空隙の果てに垣間見える巨瞳」で空隙を推している感じなので元ネタっぽくはある。

  

価値がわかる宝石図鑑 2016年1月

 163の宝石と82の鉱物種・有機物について、写真を掲載しながら品質の判断の仕方や一般的な価格帯を解説する宝石図鑑。著者は諏訪恭一。

 僕は宝石とか一切興味ないので本棚に入ってなかったら絶対に読まなかった本だけど、そんなド素人でもわかるように丁寧に説明してくれるし筆者の宝石に対する愛がガンガン読者にぶつけられてくるので結構楽しい。

 『FGO』のベリル・ガットの名前の元ネタは多分この本。

 「2部6章はモルガン・ル・フェをメインにしよう」→「そういえば宝石にモルガナイトってあったな」→「モルガナイトの鉱物名はベリルだからクリプターの名前はベリルにしよう」って流れじゃないかと。

 いやモルガナイトの名前の由来がモルガン・ル・フェでもなんでもなく銀行家ジョン・モルガンなのはもちろんこの本の中にも書いてあるんだけど……。

 どうでもいいけどこの本、内容的に宝石魔術の種本として読んだ奴(2016年11月初登場のイシュタルに備えてとか?)じゃないかと思うんだけど、この中の宝石知識が作品に反映されてる気配が特にない。そのうち回収されたりするんだろうか。 


料理と帝国――食文化の世界史 紀元前2万年から現代まで 2016年5月

 紀元前2万年の穀物料理から現代のハンバーガーまで、世界各地の食文化の歴史を包括的に描いた本。著者はレイチェル・ローダン。

 『ギルガメシュ叙事詩』や『イーリアス』みたいな文学作品から書かれた当時の食文化を読み取ったり、アレキサンダー大王や玄奘三蔵みたいな世界各国を渡った歴史上の人物から食文化の伝播を見たりするので『Fate』シリーズと関連する部分もあるといえばある。

 世界各地の各時代での食事の内容が書かれているので、種本としては特異点や異聞帯で現地人と食事する時、サーヴァントの過去回想で食事する時とか色々使えそうな本だけど、具体的に使われてるシーンあったかな?  2016年5月以降のきのこシナリオだから候補は『FGO』の1部6章キャメロット、7章バビロニアくらいだけど。

 強いて言うなら食文化と全然関係ない「ウルクには貨幣がなかった」とかはもしかしたらこの本由来かもしれない。この本だと「大麦が貨幣代わりだった」って書き方なので「緊急事態なので貨幣制度を導入した」ってバビロニアの描写とはニュアンス違う気もするけど。

 あとはヨーロッパへのジャガイモ食文化の導入とかも説明されているのでガウェインのマッシュポテトネタが完全否定されているのとかもちょっと面白い。まぁ一応あれ、明言されているのは「鯖ガウェインはポテト他をマッシュしただけの料理を作った」「生前ガウェインは野菜をマッシュしただけの料理を作ってた」だけで「生前ガウェインはポテトをマッシュした」とはギリギリ言われてなかったと思うけど……。

 

あとは多分『FGO』2部7章で、植物の持つ毒素を分解して栄養を確保する人間の消化機能をテペウがべた褒めするシーンの元ネタ……のような気はするんだけど、この本に書かれているのは「人間は料理のおかげで色々な植物を食べられるようになった」なので全然消化機能の話はしていない。

*1:Fate/Prototype Tribute Phantasm

*2:Fate/complete material II Character material

*3:Fate/side side materiale

*4:TYPE-MOONFate/stay night-15年の軌跡- 図録

*5:428 -封鎖された渋谷で- オフィシャルガイドブック

*6:GENESIS OF TYPE-MOON

*7:COCO 2002 SUMMER